昭和元禄落語心中を読んで

最近遅ればせながら昭和元禄落語心中にハマりました。2018年にNHKでドラマ化されていたのを知っていたのですが、当時は渋そうだなと興味が沸かず…スルーしました。

 

私が今回ハマったきっかけは石田彰さんを好きになりYouTubeで色々と動画を漁るうちにこれは見たほうがいい!とこの作品が挙げられていたからです。その後、漫画アプリで3巻無料になっていたので読み、その後学校の図書館にたまたまあったので、借りて読みました。

 

ここから先ネタバレ有りになります。読んでいない方は見ないようにお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

与太郎放浪篇の感想

私はこの作品を読みはじめて最初は、そこまで引き込まれたわけではありませんでした。八雲師匠の人柄が余り好きになれなかったからです。とても色気があり、思わず近づきたくなる魅力がある人ですが、冷たくかんじました。言うことも粋ですが、暖かくはなく。近くにいたら苦しくなってしまうだろうなと思いながら読み進めていました。

 

 

続いて、過去編へ

そのうちに八雲が過去について語りだします。どちらかというと過去編の若い菊比古さんのほうが好みでした。こちらの菊比古さんはしっかり内面の声が聞こえて、余り近づきがたい気持ちがしませんでした。

 

 

信之介の父親は誰

そして、助六再び篇で、また舞台が現代になります。まず、小夏さんが妊娠していておどろきました。随分いきなりで。けれど、あそこでプロポーズする与太郎は本当に小夏を救ったと思います。

 

そして、お腹の親の子は親分の子というふうに与太郎は思うわけですね。

 

私も与太郎が親分に啖呵を切る場面を読んで、小夏の子の親は親分だと疑いませんでした。

 

しかし、この辺で私はYouTubeで「昭和元禄落語心中」と検索して動画を漁ってしまいます。そこのコメント欄に気になる文字がありました。

「信之介の父親って八雲なのかな?」

 

???

 

八雲?

 

私はこのときまで八雲が父親の可能性など1ミリも考えていませんでした。けれど、それを読んでから頭から離れませんでした。この時点で読んでいるのは7巻までで、残りは図書館で借りていませんでした。次回学校に行くのは1月です。私は八雲が父親だった場合の小夏の気持ち、八雲の気持ちを考え続け、眠れなくなってしまいました。

 

だって、あの八雲さんです。偏屈で、小夏に優しくしているところはあんまり見たことがありません。引き取って育てたといっても、小夏があれだけ憎んで、殺してやる殺してやると序盤から言っているのですから、誰しもがわかるような愛情は与えていなかったんじゃないでしょうか。

 

 

そんなことをぐるぐる考え続け、どうにも眠れないので、意を決して、電子書籍で残りの8、9、10巻を買い、一気に読みました。

 

なぜだかわかりませんが、涙がだらだら溢れてきました。物語を読んでこんなに泣くのは久しぶりかもしれないといったぐらい泣きました。

なぜ、涙が出たのか一言では説明できませんが、八雲と小夏との関係性がとても尊く、さらに業を含んで見えたからだと思います。

 

はじめにいいますと、私は信之介の父親は八雲だと思っています。これは、9巻の初め、親分と八雲の会話や、10巻の終わりの小夏の言葉、特装版の小冊子を読むとはっきりしているのではないかと思います。

 

八雲は養子縁組の父親で、父と母を殺した人(と小夏は思っています。事実に気がついているのかもしれませんが)憎んで憎んで、けれど惚れていたのはたしかだと思います。10巻で最後の方のシーン、年をとった小夏が、樋口さんに「それって恋って感情だったんじゃない?」というのですが、私は恋という爽やかな言葉より、惚れたというどうしようもない、ままならない感じが、ある言葉のほうがあっているのではないかと思います。憎んで、でも惹かれてそうやって引き取られて20年以上過ごしたのだと思うと、どんな心持ちだったのだろうと胸がぎゅっとなります。

 

 

 

6巻の信之介が八雲の下へ行き、八雲が小夏の横に添い寝しながら、落語をやるシーン、8巻のタバコを回しのみするシーンなど、関係を一度は持ったのだと思うと、いちいち言葉や行動が胸に迫ります。心がぎゅっとなってしまって、この関係を言葉で表すことができず、業の深さに涙がぼろぼろ出ました。

 

 

 

どなたかの解釈で読んだのですが、八雲は罪悪感を持っていたから、高座中に助六やみよ吉を見るのではないかと書かれていました。私もそうだと思います。八雲は、小夏と関係を持ったことに対して、罪悪感がやはりあったのではないでしょうか。

 

 

 

八雲さんが三途の川を渡る前、小夏と許し合う場面は涙がもうぼろぼろ出て、嗚咽も止まりませんでした。いつものように「あんたも死にゃあよかったね」という小夏ですが、その後急に八雲に甘えます。そこが私は、女っぽく見えました。惚れた相手に話すように小夏は話しているなと思ったのです。そして「あたしのこと見捨てないでくれてありがとう」と八雲についにいいます。私は「よかったねえ、よかったねえ」と読みながらずっと思っていて、信之介が出てきて、桜の花びらを撒きだしてからの八雲の表情が今までで一番柔らかくて、涙が止まりませんでした。

 

 

 

また特装版についていた小冊子の内容ですが、八雲が、幽霊のように出てきた助六に愚痴を吐きます。小夏が、自分に惚れているのがわかるというのです。そして、その後小夏をわざと傷つけ、憎め憎めと思っています。八雲は小夏に惚れられては困ると思っていたのでしょう。助六とみよ吉を狂わせ、その娘まで狂わせてはいけないと思っていたのかもしれません。しんとして、密やかでどこにもない関係に胸が苦しくなります。

 

 

 

 

信之介が過去のあの時代の3人の血をすべてひいていること、そしてゆくゆくは八雲の名を継ぐのだろうと思うと、巡る縁というか、因縁を感じずにはいられません。

 

 

 

 

血はつながってないとはいえ、戸籍上は娘の小夏と関係を持ったことについて、気持ち悪いとの感想を持っている方の文章も読みました。私は、ですが、この二人にインモラルさは余り感じませんでした。それは八雲さんが小夏に余り父親らしいことをしておらず、小夏も八雲に父親としての親愛の情を持っているようには思えなかったからです。八雲が父親として小夏に愛されていてそのうえで関係を持ったと言うのなら、それは小夏の愛情につけ込んだと言えるのではないかと思いました。けれど、この二人の関係は助六とみよ吉においていかれたかわいそうな二人で、同居人だったのではないかと思います。戸籍上の父は八雲でも、実際に父親役をしていたのは松田さんではないかと思いますし、小夏は八雲のことを父と母の仇であると同時に、どうしようもなく好きといった相反する感情を持っていて、父として愛しているとかそういうことはなかったと思うので、特に引っかかりを感じませんでした。

 

 

全編読んで思うのが、八雲が余りに色気があるということ。私がもし小夏のように幼少の頃引き取られていても、惚れずにはいられなかったのではないかと思います。作中でも、何人かから人を狂わせる人だと言われていましたね。すっかり八雲師匠に惚れてしまいました。

 

 

また文字にすると陳腐に生々しく感じられるところも漫画を読んでいるとこうならざるを得なかったんだなというリアリティと二人の関係性の尊さ、どこにもない関係が感じられます。私は八雲と小夏の二人がお互いを想っていることは間違いなく、それが最後に確かめ合えたことは本当によかったと思いました。

また、秘密にせざるを得ない信之介の出生の秘密ですが、これもまた二人の関係の結果(ある意味目的?)として艶やかさ、業の深さ、物語がここに収束していくことの感嘆を感じます。

 

 

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。最近ハマってしまったのに誰も語れる人がおらず、苦しんでいたのでここで好き勝手語らせて頂きました。

また、思いついたら追記するかもしれません。

 

八雲と小夏中心に話しましたが、与太郎も大好きです笑

芸をやることの孤独や代々名を継いでいく落語の魅力などもたっぷり描かれていますが、今回は八雲と、小夏の関係について書きました。

 

アニメもぜひ見ようと思います。

それではまた。